【あらすじ・感想】ホイッスルダウンザウィンド 三浦春馬・生田絵梨花主演

エンタメ

2020年3月20日東京開幕

日本初上陸ブロードウェイミュージカル「ホイッスル・ダウン・ザ・ウインド〜汚れなき瞳〜」のジャパンキャスト東京公演を見てきました。

この作品、新型コロナウイルスの流行により上演の機会を何度も奪われてしまいましたが、3月の3連休に無事開演を迎えることができました。

巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバーの傑作ナンバーはもちろん、ジャパンキャストの好演が印象的な作品でした。
劇中の歴史的背景や宗教観などの事前知識があればもっと楽しめたかも・・・という想いもありつつ、観劇後の感想や考察を個人的な記録として綴ります。

アンドリュー・ロイド=ウェバーの作品はこちら

(※後半ネタバレもありますので、観劇予定の方は御注意下さい)

あらすじ

物語の舞台は1959年、アメリカ・ルイジアナ。

田舎町のトレーラーハウスで暮らす少女スワロー(生田絵梨花)は母を亡くし、父、妹、弟と寂しく暮らしている。
クリスマスを前に、きょうだいたちは親のいない子猫たちを拾う。
自宅の納屋に子猫を隠そうとして忍び込んだスワローたちは、そこに倒れていた、汚れて血だらけの男=ザ・マン(三浦春馬)と遭遇する。

「手足にイエス様と同じ傷がある」
純粋なスワローたちは彼をイエス・キリストの生まれ変わりと信じ、汚れなき瞳で「お母さんを生き返らせてください」と願う。
男は「誰にも自分の居場所を言わないでくれ」ときょうだいたちに約束させ、スワローたちは彼との秘密を守ることを誓う。

同じころ、街では「刑務所から殺人犯が脱獄し、逃走中」というニュースが流れ、大人たちを不安に陥れていた。
武装をはじめ脱獄犯を探す大人たち。
イエス・キリストの生まれ変わりをひたむきに信じ守る子供達だったが…。

感想

この作品……2回観たい。
1回では消化しきれませんでした。

理由は下記の項目にて解説します。

【事前知識で100倍楽しめる】
・知っておきたい時代背景(少しかじっておくだけでも違う)
・当時の宗教観(日本人には理解しがたい?)

【知識がなくても最高】
・圧倒的ミュージカルナンバー
・三浦春馬、生田絵梨花をはじめジャパンキャスト陣の好演

※本項目は公式パンフレットを参考に、筆者の個人的な推察や考察も交えて書いています。素人の記述である点、ご容赦頂いた上でご笑覧ください。

〜事前知識編〜

知っておきたい時代背景

1950年代のアメリカとは…

第二次世界大戦後、旧ソ連との冷戦が始まっていた当時、アメリカ国内では黒人差別撤廃を訴える公民権運動が始まっていました。(この当時の時代背景は、映画「ドリーム」でも描かれています)


ドリームの詳細はこちら

作品の舞台であるルイジアナ州は当時も歴史的に人種差別の残る地域の1つで、
アメリカ南部地方では「人種分離政策(ジム・クロウ法)」で白人と黒人を明確に分ける政策をとっていました。
田舎ではなおのこと根強かったとされています。

作品中で黒人女性であるキャンディが「こんな街早く出ていきたい」と言っていたのはこのためだったのでしょう。
おそらく当時の感覚では、白人であるエイモスと付き合っていることすら問題。
本来許されないはずの彼らが恋人同士でいられるのは、常識に囚われる前の「大人と子供の間の存在」故なのかもしれません。

当時のキリスト教観

当時のアメリカ南部はより信心深いキリスト教信者が多く、頑なに「聖書」を文字通り解釈する人々が多い地域だったそうです。
保守的な南部地方。
スワローたちの住む田舎町に至っては、より閉鎖的な環境だったのではないでしょうか。
キリスト教を信仰していない日本人にとっては、なぜあそこまでスワローがひたむきにイエス・キリストの存在を信じ愛するのか、子供から大人まで野外での礼拝に励むのか分かりにくいところもありますが・・・
当時の不安定な社会情勢と、元々の保守的かつ熱心なキリスト教信仰地域だったことを考えると、ストーリーが少し理解しやすいように感じます。

〜知識なくても最高編〜

ロイド=ウェバーによる圧倒的なミュージカルナンバー

キリスト教を軸にした、聖歌風、ロック、ゴスペルナンバー。
どれも同じ「キリスト」や宗教に捧げられた曲でありながら、つい耳に残る曲が散りばめられているのはさすがロイド=ウェバーとしか言いようがありません。

ロイド=ウェバーとキリスト教といえば「ジーザス・クライスト・スーパースター」。
今回も男声によるハイトーンを多用しています。
筆者の勝手なお気に入りは、
リプライズされるザ・マンの「独白」(1回目と2回目の味が違う。さすが三浦春馬さん)
そしてめちゃくちゃかっこいいのが、キャンディのナンバー「タイヤの跡」「出口」。
キャンディは鈴木瑛美子さん回を狙って観にいきましたが予想を超える素晴らしさ(後述)。

ジャパンキャストの好演

三浦春馬さん演じるザ・マン。

春馬さん✖️ミュージカルといえば、「キンキー・ブーツ」のローラ役でその圧倒的なダンステクニックと卓越した歌唱力を見せつけ、筆者をはじめ多くのファンを春馬教の信者にしてきました。

今回ザ・マン役ではその歌唱力に加えて、彼の演技力を目の当たりにしました。
本作は演劇色の強いミュージカルで、ダンスなどの派手な演出がありません。
求められるのは本物の演技、表情、そして歌。
パンフレットによると「ザ・マン」については台本ではほとんど何も語られていなくて、何の罪を犯して脱獄したのか、どんな背景を持っているのかなど全て自分で手探り、想像しながら役作りを進めたとのこと。

歌唱力も成長させ続けるそのストイックさ
「あなた、本当に俳優ですか・・・天は何物与えちゃうんですか・・・」と思うほど。
ハイトーンも低音も美しかった。
春馬さんが別のコンサートで初出しした「独白」よりも舞台で見た方が遥かに感情も乗っていて素敵でした。
ちなみに筆者は春馬ファンとして出演舞台を追っかけております。

生田絵梨花さん演じるスワロー。
…これ天使?天使かな?リアル天使。

彼女の当たり役だと思いました。

「レ・ミゼラブル」のコゼット役、「ロミジュリ」のジュリエットなどいわゆるお姫様役が似合ういくちゃんですが、このスワロー役って結構人を選ぶのかもしれないです。
純粋無垢に信じ続ける、孤独を抱えた少女。汚れなき瞳でザ・マンを見つめ、健気にお守りしますとか言っちゃう。いくちゃんはビジュアル、声質どれをとってもスワローにピッタリすぎました。演じていくにつれ目が離せない。
特にスワローのナンバーにいくちゃんの可憐で美しい歌声が合っていました。本場のは観たことないですが・・・
元々ルックスと声質的に「守ってあげたい」キャラが似合う彼女。故に以前演じた「モーツアルト!」の悪妻コンスタンツェ役はどうしても可愛らしさが勝ってしまい役柄とのミスマッチ感が出ちゃっていましたが(コンスタンツェのナンバーも太い声の方が映えますし)、
こういう役だよ〜いくちゃん! と心の中で叫んでしまった。

また筆者的MVP、キャンディ役の鈴木瑛美子さん。

実は彼女のこともお目当てにしていました。
「関ジャニ∞」番組で歌うま女子高校生として話題になった時から、彼女の力強い歌声のファンで、今回初めて舞台で生歌を聞けることを楽しみにしていました。

そして本当にMVP。想像以上に歌が上手いし、声質がキャンディのナンバーに合っている。
というか多分キャンディの歌が好きでたまらないんだろうな。自分のものにしている感じが伝わってきました。
腹の底からパワフルな声を出す彼女の持ち味がすごく出ていて。
ブラックミュージックやゴスペルを歌い込んでいる瑛美子ちゃんならではの表現力だと思います。
スワローとの対比も大事なこの役、同じく孤独な思いを抱える少女であるキャンディを演じていましたが、
その馬力ある声をノリノリのゴスペルナンバーに乗せて歌いこなしていました。彼女の今後に期待したい!

考察

(ネタバレあり 観劇予定の方、結末を知りたくない方は閲覧をお控えください)

ここまで長々と感想タイムにお付き合いいただき、ありがとうございました。
ネタバレありの考察をグダグダと書き連ねます。既に鑑賞済みの方は温かい目でご笑覧ください。

本作品のテーマは何?と聞かれたら
「嘘」と答えるかもしれません。

ザ・マンとスワローを繋ぐものは「嘘」でした。
本当はイエス・キリストの生まれ変わりなんかじゃなく、脱獄犯なのです。
けれどスワローはその嘘を信じることで確かに救われた。
ザ・マンも、自分を信じるスワローの姿を見て、次第に「失いたくない」と思うようになります。
嘘偽りは悪。聖書にも語られています。
二人を繋ぐ「嘘」は本当に悪なのか。

一方、エイモスと恋人のキャンディは「嘘」をきっかけに溝を深めていきます。
「この街を抜け出そう」という約束を破り、待ち合わせをすっぽかすエイモス。
「あんたが約束を守ってくれたことなんて一度もない」と嘆くキャンディ。
エイモスに裏切られたと傷つくキャンディは、秘密だったはずの「真実」を大声でぶちまけてしまいます。
「あの納屋に脱獄犯がいる」

キャンディは紛れもなく正しいことをしたはずなのに、真っ先にスワローを心配するエイモス。さらに傷つくキャンディ。
「真実」とは本当に正義なのか。

また、「対比」も本作品の大きなポイントだと思いました。
物語の中では音楽とともに描かれていきます。

真実と嘘。

正義と悪。

大人と子供。

聖と俗。

スワローや子供達の純粋無垢なシーンでは「讃美歌」風のナンバー。
田舎町の大人たちは「ゴスペル」風。
そのどちらでもなく、田舎を抜け出したい若者のキャンディたちは反骨心を歌い上げる「ロックンロール」。
場面での音楽から対比を楽しめる作品だと思います。さすがロイド=ウェバー。

また、キリスト教的な描写が鏤められている本作。
クライマックスシーンで心を揺さぶられました。

「誰もそんなふうに見てくれなかった…」

二人の心が通い合い、声を震わせるシーン。私はここで一番グッときました。

母を亡くし、幼いきょうだいの姉として気負いつつ父と向き合うこともできないまま孤独を抱えてきた少女スワロー。
誰にもこの気持ちは話したことがないし理解されたこともない。聞いてくれる人なんていなかった。

見つかったら殺される。自分にも世界にも諦めていた独りよがりのザ・マン。
嘘や騙しの連続で、見返りもなくただひたむきに自分を真っ直ぐに信じてくれる人なんていなかった。

「あなたをお守りします」とスワローが献身的に尽くす中、初めてザ・マンがスワローを守るために、自分一人納屋に残して火を放ちます。

イエス・キリストを演じた男は火に焼かれ、小屋ごとどこかに消えてしまいました。

皮肉にも聖書では「火による審判」として神に背いたものが天からの火に焼かれるという描写がありました。

彼は神を演じながら、神に裁かれてしまったのか。

終わりに

ザ・マンやスワローたちのその後や結末は描かれていませんが、受け手に委ねられる部分も多く、そこがまた味わい深い作品だと思います。キリスト教への知見があればもっと気づきが多かったのかも。

詳しい方の解説を読むのが待ち遠しいです。

以上勝手に感想&考察でした。
2回目も見たら再発見やまた違うものが見えてくるのかもしれません。。。
コロナウイルスのせいで公演期間が短縮されてしまいましたが、再演されることを願っています。

【追記:3月28日更新】YOUTUBEでダイジェスト版配信

一足先に東京千秋楽を迎えたカンパニーが、公演中止で観られなかった多くのファンのために動画をアップしてくださいました!(富山公演も中止になってしまいましたね・・・泣)

観たくても観られなかった方やこれから福岡・愛知・大阪公演に行く方、是非この雰囲気を体感してください!

公演概要

日時 劇場 お問い合わせ
3月 東京 20日〜29日
※27日までに変更
日生劇場 東宝テレザーブ
(9:30~17:30)
03(3201)7777
4月 富山 4日 中止 (土) 12:00 オーバード•ホール 北日本新聞社 企画事業部
(平日9:00~17:00)
076-445-3367
17:00
5日 中止 (日) 12:00
福岡 10日 中止 (金) 18:00 北九州芸術劇場 キョードー西日本
(11:00~17:00 日祝除く)
0570-09-2424
11日 中止 (土) 12:00
17:00
12日 中止 (日) 12:00
愛知 17日 中止 (金) 18:00 愛知県芸術劇場 大ホール 東海テレビチケットセンター
(平日 10:00〜18:00)
052-951-9104
18日 中止 (土) 12:00
17:00
19日 中止 (日) 12:00
大阪 23日 中止 (木) 17:00 梅田芸術劇場 メインホール 梅田芸術劇場
(10:00~18:00)
06-6377-3800
24日 中止 (金) 12:00
25日 中止 (土) 12:00
17:00
26日 中止 (日) 12:00
27日 中止 (月) 12:00
17:00
28日 中止 (火) 12:00
29日 中止 (水・祝) 12:00
17:00
30日 中止 (木) 12:00

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました